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「帰んの?」  まさかの続きがあった。続けたのは彼だ。しかも疑問系。自然と続けることができる。 「すげえ降ってるよ?」  俺の答えを聞く前に疑問を重ねる。二つの疑問に答える義務と時間が俺に生まれた。 「帰ろうとしてたけど……、どうしようかな」  しまった、と後悔した。どうしよう、なんて判断能力の低い人間のその場しのぎだ。彼の前では完璧でいたい。彼には秘かに「できる奴」だと思われていたい。 「ちょっと考えるよ」  詰まる声を発し、地面に置こうとしていた外靴を戻した。  考える、と言ったものの解決策は思い浮かばない。さて、本当にどうしよう。来た道を戻りながら思った。 「とりあえず図書室は?」  あっさりと思いつく彼はやっぱりすごい。彼の学力と人気に改めて納得する。脳から容姿まで俺とは段違いだ。 「うん、そうする。ありがとう」  振り向いてお礼を言い、図書室へと足を向けた。読みたい本はないが、彼のせっかくの提案だ。無駄にするわけにはいかない。何をするかは席に着いてから考えることにする。  図書室に入ってすぐ、正面ラックに置かれている小説に目がいった。彼が朝のホームルームでよく読んでいる時代劇だ。表紙のデザインやタイトルから醸し出される難しさ。でもこれを読めば、彼と何かが繋がれる気がした。たったこれだけのことだが。  席に着き、表紙を十秒ほど眺めたところでページに手をかけた。目次の時点で既に難しい。書いたことも読もうとしたこともないような漢字が視界を埋め尽くす。  彼は今、何処を読んでいるのだろう。遠くから見るだけではめくったページの量はわからない。  考えるだけで背筋がぞくぞくした。  俺が秘かにこんなことをしていると知ったら彼もぞくぞくすることだろう。  ふと窓に目をやった。止むことを知らないといった勢いで降り続けている。再び本に目を移した。
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