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「こうした方が早かったか」
ニヤリと笑う。
「顔、すげえ真っ赤」
「な、なんで」
「俺のこと、いつも見てるよね」
否定したい。だができない。
あの日も、あの時も、あの場所でも。この目にはいつも彼が映っていた。
「俺のこと好きなのかなー、たぶん好きなんだろうなー、ってずっと考えてた。いつか確認したくてさ」
何も言えない。この行動がもう答えだ。
「この本も、俺が読んでるから、ってとこ?」
本を手にとって尋ねる。
「……ごめん」
「何が?」
自分にも聞こえないレベルの声量で謝罪したが、彼には届いていたようだった。しかし意味がわからなかったようで聞き返される。
「俺みたいなのが……、その、好きになって」
「……何が?」
同じ科白で再び聞き返される。顔が熱くなる。首が痛い。
「何って……、こんな低レベルの俺が、長嶋くんみたいな凄い人を……、その」
「え? ごめん、意味わかんない」
「えっ」
「そのことに何の問題があんの? ってか何を気にしてんの?」
ああ、好きだ。
ありがとう、と感謝した。
能力や容姿で彼を好きになってしまっていたんじゃないか、と疑心を抱く自分を納得させる絶好の判断材料になったから。
「付き合おっか、俺たち」
「……そ」
「そ?」
「それは……、つまり」
「恋人になる、ってこと」
本当に夢じゃないのだろうか。
「付き合ってみようよ、とりあえず」
「とりあえず、ってそんなんで……」
「いいよ」
再び重なる、唇と唇。
「やべえ、普通にキスできる」
「やべえ」ともう一度呟いた。
「なあ、この後空いてる?」
彼が聞いてくる。
恋人、キス、その次は。
「デート、しない?」
「えっ、えっ、でも雨……」
「俺が来たときにはとっくに晴れてたよ」
彼が指差す方に目を向ける。光が、眩しい。
そうか、俺が目を覚ました時には既に、もう。
「不安? 付き合うの」
「不安っていうか、初めてだから」
「まあ無理だなと思ったら遠慮なく言ってくれていいから。スパッと別れるし」
「そんな勝手な」
「とりあえず、でいいから」
「と、りあえず……」
「うん、じゃあとりあえず言っとく」
「え」
「俺も好きだよ」
ちゃんと夢から覚めていたんだ。
〈完〉
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