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年の差
夕方のカフェでは、ふたりの女子高生が談笑をしている。ダークブラウンでロングヘアの落ち着きのある少女と、黒髪セミロングの活発な少女だ。
「あのね、れいみちゃん。来週の日曜日、演奏会あるから来て欲しいの」
セミロングの少女、めいぷるは上目遣いでれいみを見上げる。
「もちろん行くに決まってるでしょ? 場所と時間を教えて」
れいみは優しい声音で詳細を訊ねる。
一見姉妹のようなふたりだが、このふたりは恋仲である。れいみは3年生、めいぷるは1年生と、年の差こそあるが、ふたりは上手くいっている。
「えっとね、市民ホールで朝の10時からだよ」
無邪気に日程を伝え、めいぷるは内心後悔した。
(あぁ、やっちゃった……。今の私、子供っぽかったよね……)
「市民ホールで、10時ね」
れいみはスケジュール帳を開くと、丁寧にメモをしていく。めいぷるは複雑な心境で、メロンソーダを飲みながらそれを見る。メモを終えて顔を上げたれいみと、目が合った。
「めいぷるちゃん、どうかしたの? 難しい顔をして」
れいみは心配そうにめいぷるの顔をのぞき込む。
「あ、いや、その……」
(あーもう! 私のバカ! 心配かけちゃダメじゃん!)
なにか誤魔化すのにいい理由はないかと考えては見るが、思いつかない。
「あ、もしかしてケーキ食べたいのかな? はい、あーん」
れいみは自分のチョコケーキを一口サイズに切ると、めいぷるの口元に持っていく。
「あ、ありがとう……」
めいぷるは困惑しながらも、差し出されたチョコケーキを頬張った。口の中にコクのあるチョコレートが広がり、思わず頬が緩む。
「うんまぁ! え、なにこれ美味しい! 今度それ食べる!」
美味しさのあまり、めいぷるは子供のようにはしゃいだ。
「気に入ってくれてよかった。このチョコケーキ、カフェラテと相性抜群なのよね」
れいみはチョコケーキを一口食べると、カフェラテを飲んで小さく息を吐く。
(あー……またやっちゃった……。れいみちゃんのが年上だから仕方ないところあるんだろうけど。このままじゃ、いつまでも妹ポジションじゃん……)
めいぷるはストローを回して、氷をカラカラ鳴らす。
「あ、そだ。れいみちゃんも食べる?」
めいぷるは自分のモンブランを一口サイズにすると、れいみの口元に運んだ。
「めいぷるちゃんもくれるの? 嬉しいな」
れいみは小さな口を開けてモンブランを食べると、上品に口元をおさえた。
「うん、モンブランも美味しいね」
そして可憐ににっこりと笑ってみせる。
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