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テオフィールに与えられた客室につくなり、アニカはどさっと寝台に倒れ込んだ。
特別疲れていたわけではないが、ここの寝台はふかふかしていて心地が良い。瞼を下げれば、そのまま眠ってしまいそうだった。
窓の向こうはとっくに陽が落ち、燭台を灯していない室内は薄暗い。けれど、燭台はつけない。アニカの目は、月明かりだけでじゅうぶん室内を見渡せる。
薄墨に染まった天井を見上げ、アニカはそっと息を吐く。
どうせ死を待つ身なのだから、許されるままここに滞在するのもいいかもしれない。それとも強引にここを出て、また旅をはじめようか。
今日の外出でよくわかった。法術師も人間である。撒こうと思えば、いくらでも撒けるだろう。
(テオフィールが油断してるうちに、なら、できなくもないはずだけど)
心配なのは、彼が病気だということだ。
アニカの寿命を分けてあげられたらいいのに、と思う。
そしたらお互い、万々歳なのに。
「……うまくいかないものね」
ぽつりとつぶやき、そっと目を閉じた。
屋敷にいる人間たちの話声が、壁を突き抜けて聞こえてくる。うるさい、と耳を押さえて寝返りをうった。
ふと、近づいてくる足音があった。
台車を引いていることから、夕食を届けにきたのだとわかる。
眠ってしまいたかったアニカは軽い息をつきながら、給仕を迎え入れるために立ち上がった。
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