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「止める気?」 「止めたいですね。私は子どもが欲しい、どうしても」 「あたしじゃなくてもいいじゃない。そのうち都合のいい人が現れるでしょ」 「テオフィール様がこの世からいなくなるまでに、ですか。数年のうちに、妙齢である金の腕輪の所有者を見つけることの困難さ、あなたならわかるでしょうに」 「知ったこっちゃないんだけど」  ふん、と顔をそらしたアニカは、身体を乗り出してそのまま中庭の東屋のうえに飛び降りた。物音を一切たてず、そのまま器用に向かい側の屋敷の屋根へ飛び移る。  仕方がない、とヴァルターも後に続いた。  テオフィールの屋敷を過ぎたところで、アニカが顔をしかめて立ち止った。 「ついてこないで」 「そうはいきません」 「ねぇ、思うんだけど。子どもが欲しいなら、テオフィールに頼らずに、相手を探して全国を渡り歩いてみたら?」 「生まれてきた子どもをどうやって育てるんですか。教育面でいいとはいえない環境になってしまう」 「ああ、そう。そういうこともちゃんと考えてるのね。たしかテオフィールに頼れば資金面も豊富だろうけど。でも、血を奪われるのよ? 我が子にそんなことさせて平気なの」 「殺されるわけじゃないですから、ある程度の妥協は必要です。無償で手に入るものなど絶望くらいでしょう?」  アニカは益々顔をしかめた。  納得できていないのだろう。ほだされる様子は微塵もない。 「……なら、どうするの? このままついてきて、手籠めにでもする気?」  ヴァルターは目を見張った。 (……手籠め)  考えたこともなかった。  相手の同意を得ることばかり考えていて、腕づくでという方向に考えが及ばなかったのだ。確かにそれも一つの手だが。  ちらり、とアニカを見る。  憮然と立つ彼女はヴァルターよりも百年は年下だろうに、こういうこと――子づくりに関してはなぜか先輩のように思えた。性からくる考え方の違いだろうか。 「子どもが欲しいんでしょ? どうしてそんな顔するの」  アニカの言葉に、自分が困惑していることに気づいた。  同じ金の腕輪の所有者だからといっても、体力ならおそらくヴァルターのほうが勝る。無理やり子どもを作ってしまえばいい。身ごもれば、アニカだって拒否できなくなるはずだ。  けれど。  けれど。 「……それは、違う気がするんです。やはり、あなたの同意がないと」 「目的は子どもでしょ? なんであたしの考えにこだわるの」 「それは」  たしかに子どもが欲しい。けれど、そういう意味で子どもが欲しいわけではないのだ。 (……ああ、そうか)  こつん、と自分の胸に小石が落ちてきたような感覚を覚えた。
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