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自分は、子どもが――家族が欲しいのだ。
コリーナが望んだのは、愛する人の子どもだった。子どもを迎えて、家族として暮らすこと、それが彼女の望みだった。
ヴァルターがコリーナに拾われたのも、家族が欲しいという理由からだった。孤独な人生を歩んできたヴァルターをコリーナは我が子として育て、そして死んでいった。
無理やり子をつくったとして、ヴァルターが得るのはカタチだけの家族に他ならない。身ごもったアニカは子どもを愛するだろうけれど、きっと、ヴァルターのことを生涯許しはしないだろう。
それでは駄目なのだ。
都合がいいかもしれないが、ヴァルターが欲しいのは、もっと愛情に満ちたなにかなのだから。
ふと、気づく。
これはアニカが最初に言ったことと同じではないか。
ヴァルターを愛したら子どもを作ることを了承する。そう言った彼女の言葉こそ、ヴァルターが心から望むものだった。
「じゃあ、もう行くから」
「待って!」
思わず声をあげてしまい、慌てて口元を抑える。
「……なに」
騒がれてはまずいと思ったのか、アニカは非常に嫌そうな顔で振り向いた。
「もう少し時間をください。あなたを愛したいから」
「へい?」
「茶化さないでください、真面目な話なんです。私はあなたを愛したい」
緊張が伝わったのか、アニカは面食らったように目を瞬いた。
「子どもが欲しいからでしょ」
「ただ子どもが欲しいだけでは、駄目なんです。私は、あなたも欲しい」
「……どういう意味?」
「家族になりたい。一人は嫌なんです」
口に出して、初めて自覚する。
そう、一人は嫌だ。コリーナが死んでからずっと、子どもが欲しくて地上を彷徨ってきた。けれどそれは、もうとっくにコリーナのためではなくなっていた。ただ自分が、ヴァルター自身が、一人でいることが嫌だったのだ。
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