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 ややあって、おそるおそる手を伸ばしてくる。アニカの頬を撫でて、涙をぬぐう。 「……すみません」 「信じたあたしが馬鹿だったのよ」 「アニカ」 「もう、何も知らない!」  寝台から降りて、そのまま窓から身を躍らせた。跳躍して、向かい側の屋敷の屋根へ飛び移る。そのまま次々に屋根を飛び移り、気がついたころには街外れまで来ていた。  街を見下ろせる丘に立ち、はっと自分の身体を見る。  せめて旅装束に着替えてからくればよかった。アニカが着ているのは、貴族の令嬢が着ているような質のよいドレスだ。 「……どこかで取り換えてもらわないと」  換金屋で頼めば、喜んで交換してくれるだろう。  さすがに近隣の街ではいつテオフィールの手の者がくるかわからないので、夜のうちにいくつか街を超えておこう。  そうすれば、テオフィールはアニカを諦めるだろう。  きっと、ヴァルターも。  二人はまた共同して、新しい金の腕輪の持ち主を探すに違いない。それでいい。それでいいはずなのに、胸の奥が締め付けられるように痛かった。  騙されていたことが、堪えているのだろうか。たぶんそう。だから、人間は嫌いなのだ。大嫌い。もう、考えたくもなかった。
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