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「聞いてなかったんですか? ……愛してるからです」
近づいて、アニカの腕を取った。
そのまま手のひらをくっつけて、嘘ではないことを知ってもらう。こんなこと無意味かもしれないけれど、それでも、自分の言葉が偽りではないことを知ってほしかった。
手のひらからは、アニカの感情も伝わってきた。
激しく動揺している、と同時にとても照れている。それを誤魔化そうと必死に平常心のふりをするアニカに、少しだけ笑ってしまった。
それを見たアニカが、憮然として手を離してしまう。途端に物悲しい気持ちになり、ヴァルターは寂しくなる。
「……ずっと一人でした」
「うん」
「でも、あなたに出会った。もう、一人のころには戻れません」
「……そんなこと言われても」
「愛しています」
ヴァルターは、もう一度アニカの手を取った。
そのまま強引に引っ張って、すっぽりと自分の胸に彼女を収める。
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