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人と違うことがバレて迫害にあったのも、一度や二度ではない。人を殺したことだってある。野盗に襲われたときなんて、少し脅してみせたら「化け物」だって罵られた。
化け物だから、アニカは幸せになれない。
ただ生きていくだけが、今のアニカにできることなのだ。
「なら、私だって化け物ですよ」
「ヴァルターは違う」
「なぜです」
「だって、優しいもの。優しくできるってことは、人であることを忘れてないってことだわ。ヴァルターは人間でもある。だから、あたしとは違うの」
「優しいのはあなたでしょうに」
ため息交じりの言葉に、アニカは視線だけをあげた。
「テオフィール様を心配なさっていたではありませんか」
「それは、自分の立場とちょっと似てたから同情しただけよ」
「それでもじゅうぶんです。それに、人間である必要なんて、我々にはないでしょう。人でなくなっても、あなたはじゅうぶん魅力的ですから、安心してください」
ヴァルターは、繋いでいた手をつなぎなおした。
アニカはどこか呆然として、ヴァルターを見つめる。
しん、と静寂が落ちた。
ぴり、と法術師が放っている術で、少しだけ身体が痛む。
「……本当に一緒にいてくれるのね?」
「ええ。寿命が尽きるまで」
「そ、そんな先のことまで約束しないで。どうなるかなんて、わかんないんだから」
消極的なアニカに、ヴァルターは少し考える素振りをみせた。
「でしたら、明日も一緒にいると誓います。明日になったら、次の明日も一緒にいると誓いますから」
「……うん。それなら」
ごにょごにょと頷いたアニカに、ヴァルターは笑う。
「行きましょう」
ヴァルターはにっこり微笑んで、アニカに向き直った。
なにをするのかと思っていると、突然アニカの背に手を回して、ひょいと抱き上げる。
「ぎゃ! なにするの!」
「俗にいうお姫様だっこですね。途中で逃げられても困りますから」
「逃げないってば!」
「少しくらいいいじゃないですか。私にもいい想いをさせてください」
「……お姫様だっこのどこがよ。恥ずかしいだけじゃない」
むぅ、と膨れてみせるアニカは暴れてみせたが、ヴァルターが離してくれないと知るや、諦めてむっつり黙り込んだ。
とん、とヴァルターが地面を蹴る。
そのまま、街と反対方向へ駆けていく。遠くなる故郷に少しの寂しさと、これからを思う期待でアニカの胸はいっぱいになる。
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