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「あなたも、彼らに見張られてるのね」 「テオフィール様から見れば、私もいい駒ですから。ご自身のお命がかかっているので、必至なのですよ」 「そう。そうよね」  命が大切だという気持ちは、痛いほどわかる。  二百年経った今でも、あの日願った切実さは決して忘れない。ロイはいずれ自分を恨むと言っていたが、アニカは心からロイを恨んだ日なんてなかった。  腕輪を受け継いだ者は、譲った者の最後の記憶を引き継ぐことができる。  ロイは、もともと寿命を迎えた状態で封印されていたそうだ。だから、あの日出会ったアニカに腕輪を託すのは当然の流れだった。  すべてを受け継いだ今ならば、それも仕方がなかったと思える。それどころか、死ななかったことに感謝すらした。たとえ、同時に人であることを捨てるしかなかったとしても。 「……デートでもしてみましょうか」 「は?」  唐突に、ヴァルターが言った。 「私を心から愛していただければ、子どもを産むことを承諾していただけるのでしょう?」 「……なんでそんなことになってんの」  アニカはあくまで愛する人とのあいだに子どもが欲しいと言ったのであって、そんな強行に頷いたつもりはない。  おや、とヴァルターは軽く目を見張った。 「違いましたか?」 「違うってば。……でも、デートはちょっとしてみたいかも」  よくよく考えなくても、アニカは今までデートというものをしたことがない。  貴族であったころ――人間だったころは、まだ十四歳という成人の手前の歳だったため、異性と関わる機会さえほとんどなかったのだ。  ただの興味本位からきた言葉だったが、ヴァルターは微笑んでアニカの手を取った。 「なら、行きましょう」 「え、今から? どこに?」 「その辺をぶらぶらと」 「デートってそういうものなの?」 「……さぁ。よく覚えてませんねぇ、デートなんて生前もあまりしませんでしたから」 「生前って、あんたねぇ」  人間であったころのことを言っているのだろうが、ずいぶんな言い回しをする。  腕を引かれて立ち上がりながら、ちらりとヴァルターを見上げた。見ればみるほど、整った顔立ちをしている。  むしろ、整い過ぎて怖いくらいだ。もう少し不細工要素が入っていたら、愛着もわいたかもしれないのに。 「なんですか、人の顔をじろじろと」 「なんか勿体ない顔立ちしてるよね」 「は?」 「生まれつきの顔なの?」 「いいえ。違います」  アニカは、やっぱりね、と心の中で息をつく。  金の腕輪を継承する際、継承者は願い事を一つだけ、叶えてもらえる。  ただし、「願いごとが叶う」ということは継承される側には秘密にされ、継承当時もっとも切実な願いを腕輪が勝手にかなえてくれるのだ。アニカの場合、追手を消すことだった。だから、腕輪の力で当時屋敷を襲ってきた者たちを、全滅させてしまったという手痛い覚えがある。
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