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それは僕にとって、見覚えがあるどころの家ではなかった。
大きな塀に覆われて、見上げるほどの門がどっしりとしている。
普段なら内側から鍵が掛けられていて、来客はベルを鳴らして内側から門が開けられるのを待たねばならない。
なのであまり期待はせずに門に手をかけた。すると門は拍子抜けするほどに簡単に開いたのだ。
出迎えも待たずに入ることには、何ら問題はないだろう。何故ならここは”僕”の家だ。むしろ執事たちの方が僕の帰宅に早々に気がついて出迎えるべきなのだ。
庭も広いため玄関まで少し歩かなければならなかった。
そんなことはいいのだ、ここは僕の家だ。僕が僕の家の中を歩くという行動には何らおかしなところは無かった。
ようやくたどり着いた玄関の戸に手をかけ、さすがに開いていないのではないだろうかと思ったが、それはあまりにも簡単に開いてしまったので、むしろ焦ったほどだ。
セキュリティはどうなっているんだ、執事は、メイドたちはどこに行ったのだ。僕の家には常に誰かが居るはずなのに鍵すらかかっていないなんておかしい。
僕の家はかなり裕福な家だ。
この家の大きさ、抱えている執事に、メイドたちの人数からも傍目でみても裕福であるというのは簡単に理解されるだろう。
そしてそんな評価以上に僕は恵まれた生活をしている。
玄関の戸を開けると、ドラマや映画に出てくるようなつくりで、大きなエントランスと、シャンデリアが出迎えてくれる。
趣味の悪そうな甲冑や絵画は、お父さんが何の付き合いかは知らないけれど、どこぞで買ってきた気味の悪い代物だ。
いつ見ても気味が悪い。
まあ、こんなものはどうでもいい。お父さんの骨董の趣味なんて、家を破滅させるような金額のつぎ込み方さえしなければそんなことはどうでもいいのだ。
あくまでお父さんのそれは、何らかの付き合いでやむを得ず持ち帰ってきたようであったから。だからそれは全然問題はないのだ。
問題は別なところにあった。
その問題はお母さんをひどく悩ませたし、僕にとっても悪影響極まりないものであった。
本当に、むしろとっかえひっかえ知らない女の人が出入りする方が、どれだけよかっただろうかと、子どもながらに思ったものだ。
お母さん以外のどこぞの女に入れ込んでいるというのは、漏れ聞こえてくる会話で、子どもにだって伝わるものであった。
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