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色々なことを思い出しながら、家の中を歩き回ってみたけれど、誰も居なかった。
そんなはずはないのに、誰も居なかった。
常に、執事か、メイドが……いや、本当にそうだったろうか。
あの日も、執事もメイドも居なかった気がする。
ところで、あの日とは何だろうか。自分で思い出したはずなのに、その記憶がもやがかかったように曖昧になっていく奇妙な感覚だった。
僕の部屋は2階の日当たりがいいところにあった。
いつもメイドたちが掃除をしている部屋は、窓枠にもほこりひとつないへやであった。お父さんが僕に買い与えた鉄道模型は、本物志向そのもので、細部まで精巧に作られている。
そう、僕はとてもお父さんに大切にされているし、お母さんも大切にされるべきだしそうであってほしかった。
屋根裏部屋にひとまず確保されたそれは、”アレ”のための部屋っだった。
明らかに僕との扱いの差があった。
部屋の規模も、与えられるおもちゃも、交流の場で、アレがまともに日の目を見ることはなかった。卑しい態度が失礼にならぬように、来客時には部屋から出ないように言いつけられていた。
でもそいつはこの家にいるだけで、お母さんを苦しめるだけの存在であった。
お母さん以外の女に入れ込んでいるのは知っていたけれど、まさか子どもまで居たなんているのは知らなかった。
しかもそいつは僕とあまり変わらない年齢だったのだ。
嫌な憶測ばかりが飛び交って、家庭内が不穏な空気で溢れかえっても、それでもなお良い家庭を演じ切らなければならなかった。
お母さんはきっとよい母を、お父さんの妻を演じ切ったと思う。僕もだ。お父さんの期待にこたえ続けたはずなのに。
どうにもお父さんは僕らのことが視界に入っていないような表情をすることがあった。
あの女が死んだからと、何でその子どもを引き取ってきたのだろうかろ、認知するでもなく、調べてみれば戸籍もない、そんな子どもを隠すように屋根裏部屋に住まわせて、お父さんは何を考えているのだろうか。
そんなことをしてその女に対する償いか何かなのだろうか。
屋根裏部屋に来てみたけれど、僕の部屋のようにそこも掃除が行き届いていて、何とも不思議な気持ちになった。
何でお父さんはこんなやつにも居場所を与えてやっているのだろうか。
それがとても腹立たしかったのを覚えている。
だから嫌がらせ半分で、僕はそんな行動に出たのだろう。
屋根裏部屋に転がっていた”それ”が、もやのかかった記憶を底の方から引きずりだしたようであった。
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