熊がおちていく。

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 気がつくとまた、荒野に立っていて、さっきまでいたはずの僕の家はきれいさっぱりと消えていたのだ。  ふと荒野の先に大きな岩壁が見えてきた。  岩壁の先には水が流れる音が聞こえた。  岩壁には映し出されたような人影がいくつもあって、どうにもお父さんの骨董品に負けじと気味が悪かった。  その人影たちが何か言いたそうに蠢いているのを無視して、岩壁の向こう側に行った。  あの水音は川だった。  星一つない暗い空が広がっていた。  川を覗き込んでみると、そこには”僕”は居なかった。  水面に映ったのは”熊”だった。ゆらゆらとクレヨンで塗りつぶしたような黒目に、よだれを垂らした半開きの口というなんとも締まりのない熊だった。厳密にはそんな熊の顔と胴体に、人間の腕がくっついていた。そのがっちりとした腕は大人の男性の腕だろうと想像させた。  これはさすがに、お父さんの骨董品よりも気味が悪いものであった。  周囲には僕と同じ姿をした”熊”たちが居た。  それもまあ、お行儀よく整列している。何が起こっているのかは分からなかったけれど、僕もひとまずその列に並んでみた。 「さあ、”光の欠片”を集めてらっしゃい」  頭の中に声が直接響いてきた。  何のことか意味はよく分からなかったけれど、他の熊たちに着いていくようにその場をあとにしようとした。 「おや……それはいけないよ、憎しみは、憎しみはいけないよ」  また響いてきた声が、どうも僕に対してのみ向けられた言葉であるというのに気づくのには少し時間がかかった。かかったけれど、気にせず先に進むことにした。  その言葉の意味を僕はちゃんと理解していなかった。  僕にとってはそんなことどうでもよかった。  ただ確かめねばならないことがある、それだけであった。  僕は僕の家めがけて飛んで行った。屋根裏部屋に転がっていた”それ”を確かめねばならないからだ。  それを確かめることがどのような結果を生むのかなんて分からなかったけれど、それでも知らねばならないのだ。  だからこんな姿になろうとも、お構いなしだった。  家に着いた頃には、執事もメイドもちゃんと居たし、お母さんもいたし、お父さんも居た。  ただ、僕が居るべきところにそいつが居たのだ。  
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