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愛人の子なら、それらしくしろと言ったのは僕だった。
お前の母親は醜い奴だと、妻も子も、身分も金もある男にすり寄ったどうしようもない奴だなと言った気がする。
その母親が病死しただか何だか知らないけれど、何でここに堂々と居座れるんだ。
その日は、お父さんの仕事のトラブルや、メイド自身の家庭の事情も重なって、僕とそいつだけが家に居るという時間が出来てしまった。
屋根裏部屋には、冷たくなって仰向けに転がっている、まごうことなき”僕”が居た。目が見開かれていて、失禁までしている。何ともだらしなく恥ずかしい格好のままに転がされいるのだ。
首には圧迫されたときの小さな手の痕がくっきりと残っていた。
それは、簡単なことであった。
僕はそいつに殺されたんだ。
なんでそんなやつと、お母さんは笑って一緒に食卓を囲んでいるんだ。
「いいか、お前が今日から×××だ」
「わかったよ、父さん」
「お前も、いいな」
「……え、ええ」
それは僕の名前で呼ばれるそいつだった。
そいつが僕になったら、僕は一体何なのだろうか。
鏡に映った醜い”熊”を、僕は思わず殴ってしまった。
殴った拍子に鏡は粉々に砕けて、その音に驚いたお父さんやお母さん、執事にメイド、そしてそいつがやってきた。
「な、なんだこれは……」
「変なのがいる」
お父さんとそいつは、奇妙な姿をした”熊”を見て、何とも不思議そうにしていた。
お母さんは……
「き、気持ち悪い。何なの、追い出してちょうだい」
顔をしかめて手で払うような動作をした。
「早く、何かあったらいけないわ」
「わかったよ母さん」
お母さんは、そいつを連れてこの場を離れようとした。
息子の僕に手を払う動作をして、そいつを我が子のように手を引いて。
息子の僕のからだをあの屋根裏部屋に転がしたまま、そいつを我が子のように僕の名前で呼んだ。
そんなこと、僕は耐えられなかったし、耐える理由もなかった。
そっから先のことは正しくは覚えていない。
ただ少し日数が経過して、家庭の事情で一時帰省していたメイドが戻ってきたときに、生きている人間が、家には居なくなっていた。
”光の欠片”を集めろって言われたけど、そんなの分からなかった。
ただ、僕の胸にあった、温かい光が、その温度と輝きを失っていくのを感じた。
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