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まさに死ぬ思いで終活をすることで、計画には届かないがまぁまぁ順調に体重は増えてきた。 体調の悪さと、自分の初めて感じる肉の重さにしんどさを感じていた。 夕飯が終った夜8時過ぎ、先程食べた大量のカルボナーラが昇り龍のようにグンと喉を突き上げた。お父さんは幾分大きくなった尻を持ち上げ、自宅の庭に出た。 お父さんは物思いに耽ける。 これまで幾度も親戚の帰食葬に参列してきた。 彼の家系は、幸運にも突然死や事故死など、家族不幸者はあまりおらず、立派な食肉儀式を取り行えた。 儀式をせず亡くなるものは墓場にも名を刻まれることが許されない。もちろん来世もない。 無事帰食葬をとりおこなえた際には死にゆく家族を誇らしく思うと同時に毎回感激したことを覚えている。 太りに太った彼らの肉はみな、非常に美味しかった。 彼らの間には帰食以外で食肉をおこなうことはない。 もちろんほかの動物なんてもってのほかである。 とうとう自分の番かと、少しセンチメンタルになる。余命をちゃんと宣告されたことに対して嬉しい反面、この世とのお別れは思ったより急だったのでやや寂しかった。 この世に何度目かの生を授かり、産まれ落ちてからの月日がとても愛おしい。 死に対して、未練や後悔、別れを惜しむことは、良くないとされている。 なので、全ての者は一生懸命自分の生を全うする。 喧嘩も争うものもいない。 誰もが、清潔かつ健全な生活を送る努力をしてきている。 寂しさという小さな罪を胸の引き出しの奥にしまい込んで、お父さんはこの日最後の糖分を摂りに部屋へ戻った。
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