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「鉄板焼スタイルで逝くのは夢のまた夢」 と言うように、一般的な家庭ではまずこのスタイルでの葬儀は見ることは無い。 昔から有名な権力者の中では人気があると言う認識しかない。 親戚一同仰天のあまり、お母さんを止めたり説得したりした。 それでもお母さんの意思は固く、周りは期待と不安に焦らされながら、当日を待つことになった。 残り1週間をきり、お父さんはそれなりにぽっちゃり太った。 前日に自分の料理法が知らされる。 贅沢はしないお父さんは、バーベキュースタイルだとほぼ確信していた。 バーベキューになることはきちんとした家庭である証拠であった。 さらに下だと、乱雑で安値のミンチ葬になる。それはないな、との確信もあった。 さぁ、あともうひと仕事だ。と重い体を起こし、クッキングクリニックに向かった。 1ヶ月ほど前から、このクリニックに通っている。 全身のコリをほぐし、贅肉を丹念にオイルマッサージしてもらうクリニックだ。 施術中、ふと、隣の個室から話し声が漏れてきた。 「わたしはね、明日が葬式なんだ。 あぁ、やっぱりバーベキュースタイルさ。妥当って感じで何も感じなかったね。まぁ贅沢は言えないよな」 「大往生よ!当たり前だけど、家族に誠意があって良かったわよ。感謝するべきよ」 「ところで、聞いた話なんだけど…」 ふと、耳をすませてしまった。 思いがけないその内容から、お父さんとマッサージ師は手を止めて顔を合わせた。
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