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お父さんの終活が始まる。 高齢と、死期の迫った体により動きが若干鈍いが、張り切って作業に取り掛かった。 朝は生クリームたっぷりのワッフル5枚を、はちみつ入りホットミルクで流し込んだ。 その後ちゃんと1時間はゴロゴロして過ごす。 胸焼けがして仕方がない。 この時点でギブアップしそうだ。 部屋をお母さんとは別にした。そして壁の色を太ると言われている黄色に塗り替えた。 ふっかふかの快眠ベッドは死にゆくものに代々与えられるそれぞれの一族の家宝だ。 彼の自立して家を出た子供たちも毎日交代で大量のお土産を手に「お見舞い」にやってくる。 ある夜、1番上のお兄ちゃんは砂糖を入れたホットシェリー酒を片手にお父さんを励まし続けた。 「お父さん、すごく誇りに思うよ。ぼくも父さんに似て痩せてるから、今勇敢に立ち向かってるお父さんを見て、ぼくもそうなるんだって勇気が湧いてきたよ。別れを惜しむのは罪だけど、本当はさみしい。でも、本当に自慢のお父さんだよ」 お父さんは穏やかに頷いて、ツマミのレーズンバターをかじり、さつまいもにハニーマスタードをたっぷりつけて食べる。 「私もお前を誇りに思うよ。似た体格のせいで辛い思いもすると思う。だから、美味しい肉をたらふく食べられるように、父さん頑張るよ。いつも自慢の息子で、ありがとう」 甘い空気が充満した部屋に男同士、目じりを湿らせて語り合った。
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