夏色タイムリープ

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「やっぱりアメリカへは俺ひとりで行こうと思うんだ」 僕らが高校を卒業して、ある日タイチは僕と杏に言った。 「わたしも行きたかったなぁ。ねえ、一樹」 でもタイチがそう決めたんだ。 僕はタイチの気持ちを尊重してやったほうがいいと思った。 数日後、空港でタイチを見送った。 「また会えるよな」 僕は彼に言うと 「何言ってんだ、あたりまえだよ そうだ、これ持っててくれよ」 そう言って彼は僕にあの時のジッポのライターを手渡した」 「なによ、忘形見みたいな感じね、ほんとにまた帰ってくるんでしょ?」 杏は珍しくなんだか悲しそうな表情だった。 「当たり前だろ、アメリカに行くのは俺の小さな夢だったんだ。気が済んだら帰ってくるよ」 しばらく経ってタイチに電話をかけると、元気にしていると彼は言っていた。 しかし、また数日電話をかけても、彼には繋がらず、何度か試しても結果は一緒だった。 彼の母親は連絡がとれているのだろうかと思って、タイチのいたアパートへ行ってみても部屋は空き部屋になっていて、誰もいなかった。 ある日ニュースで、銃の乱射事件で邦人男性死亡と報じていて、タイチが死んでしまったことがわかった。 僕と杏は一緒にそのニュースを観ていて、言葉も出す、信じられない気持ちだった。 タイチの両親はどこにいるのか手掛かりもなく、僕たちがアメリカへ渡航し、さまざまな手続きをして彼を日本へ連れ帰った。 葬儀は僕と杏、僕らの親族、一部の同級生とごく少ない人数で行われた。 棺の中の彼は穏やかな顔をしていたけど、あれだけよく話をして、活発だったタイチを思い出すと、いたたまれなかった。 「なんでよ、タイチ・・」 杏は僕の横で涙をこぼした。 僕はずっとゴルフボールのことを考えていた。 これを使って彼がアメリカへ行くのを止める。 しかし、思い詰めて一度ゴルフボールを握ってどれだけ念じても、あの時のようには何も起こらなかった。 いいか、これはただのゴルフボールだ。 彼が言っていたのを思い出した。 この時代に来た時点で、ゴルフボールはほんとうにただのゴルフボールになってしまった、ということなのだろうか。 僕たちは、タイチのことをずっと忘れない。 忘れようにも忘れることはできない。
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