夏色タイムリープ

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あの夏の日、僕たちは土曜の朝ふたりで映画館へ向かっていた。 となり町の映画館。角を曲がると道の先に堤防が見えた。 「海、見ていこうよ」 杏が言うより先に僕もそう思っていた。独りでもここへきて、海を眺めることがある。 階段をのぼると、目の前に寂れた街角の影が吹き飛ぶように視界がひらけた。この海は綺麗だ。 何もかも忘れられる、そんな瞬間も味わえる。もちろん全てをわすれることはできない。 波は太陽の光を乱反射させ、波しぶきの白と青、遠くにいくほど色は濃くなっていく。 遠くに浮かぶタンカーは、俺はここから意地でも動かないぞ とでもいうようにずっしりと腰を据えていた。 海鳥は鳴き声をあげ、彼らが飛ぶ空は淡いブルーだった。 空の端っこに入道雲が横たわって、それを見ていると夏はまだまだ終わらない。 この夏は、 「永遠に」終わらない。そんな気にさえ僕をさせた。 永遠に終わってほしくなかった。杏と出会えたこの夏がすきだったから。 杏は階段に腰掛けて僕を見上げた。
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