君に留まれ、水茎の跡

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 瞬く間に広がった色の凄味(すごみ)の割に、伴った音は鈍く単純なものだった。横様(よこざま)に机を打つ、硝子(ガラス)のインク瓶。一息に吐き出される赤。意地悪を言いつけようとする子どもみたいに、濡れた万年筆が転がってくる。  インクを補充しているから気をつけろって、言ったじゃないか。まったく君は昔から、ノックはしないし、入ってくるや人の背中にぶつかってくるし。  ……なんだい、泣いているのかい。その手で(こす)るんじゃないよ、顔中真っ赤になってしまう。手が汚れているの、気づいているかい?   懐かしいね、君が小さかったとき――ここへ来たばかりの頃にも、そうして手を赤くしたろう。  不思議だな、今目の前にいる君よりも、あの日の君の方がはっきり見えて、くるんだ……。
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