先に口説いたのはあなたなのに

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「顔に書いてあるご質問にお答えしましょう。最愛の夫に先立たれたオーナーは、私よりも年上で、同じ干支でしたが、二人はどちらからともなく魅かれ合い、男と女の関係になりました。いわゆる内縁の関係ですね。私は喫茶店のマスターとしての心構えから仕事の内容全てを叩き込まれました。そりゃあ、厳しいものでしたが、そこには愛がありました。オーナーのためにも、早く一人前になろうと必死に頑張ったものです。あんなに勉強したのも、生まれて初めての経験でした。」  マスターは、昔を懐かしむように、遠くを見つめていた。そのロマンスグレーの横顔があまりに美しく、男前だ。見方によっては、彼に似ているように思えるかも。  それより、マスターの話は美談だ。美談すぎる。それなのに、意地悪な質問を顔に書いていた私、マスターの魂を救ったラーメンがどこのお店なのか気になってしょうがない私は、またまた、自己嫌悪に陥る。  やっぱ、こんなんが、彼が私を嫌いになる理由かな。 「それより、彼の話は聞かせてよ。」 「はい、喜んでとは言えませんが、お話ししましょう。喫茶店はそこそこお客さんが入り、オーナーとはそれなりに幸せな生活を送っていましたが・・・」  マスターは、そこで話を切った。とても、苦しそうなので、私は自分のことのようにハラハラする。
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