先に口説いたのはあなたなのに

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 そう言えば、以前私は彼に言われたことがある。 「君の歯に衣(きぬ)着せぬ性格、物事をズバッとはっきり言えるところが、好きだ。」と。  マスターの話を聞いて推理してみたんだけど、彼は小さいころから周りの大人の顔色を窺って大きくなったのだろう。みんなに好かれる可愛い子であることが生きる術だと、子供なりに必死だったんだろうな。だから、言いたいことを言えず、周りに気を遣う性格になってしまったに違いない。  しかし、そんな彼が私に別れ話を持ち出したのは謎である。 カラン コロン カラン  その時、一次会が終わったらしいOL三人が元気よくドアを開けて、やってきた。テーブルに座ったんだけど、マスターとこれ以上お話しするのは無理と判断し、私はお店を出ることにした。  夜空を見上げると、星一つなく、雲で真っ暗だった。今の私の心模様にピッタリだな。  悔しくなって、一瞬、彼のアパートに討ち入りしようかと思ったが、私のプライドが邪魔をした。大人しく、自分のアパートに帰ることにしたが、途中のコンビニで鯖缶と缶ビールを買うことを忘れなかった私である。  
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