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Day.2 彼は笑顔で僕の話を聞いている
気が付くと、あの歩道橋の前まで来ていた。もう新しくないからか、あのペンキの、鼻がツンとなる臭いもなくなっていたので、僕は嫌な気分になることなく、階段を上ることができた。強い夏の日差しが背中のランドセルに容赦なく刺さる。あんまりにも汗で蒸れるから、被っている学年帽を脱いでしまおうかと考えた。階段を上がりきって、左に曲がると突然、大きな声がした。
「おーい!こっちだよー!」
顔を上げると、橋の真ん中あたりで彼が手をブンブン振り回して、笑顔で待っていた。そんなに大声で呼ばなくても、周りに人なんていないのにと、うんざりしながら、僕は彼に近付いて行く。
「だって、君に会えるのが嬉しかったんだもん」
僕の考えた事が分かったように彼は微笑んだ。橋の中央に集まった僕らは、鉄の柵越しに道路を見下ろしながら並んで話をした。話をしたというより、彼が質問してきた事に僕が答えるだけだったけど、彼は嫌な顔せずに楽しそうに聞いていた。
「学校で何か面白いことはあった?」
「図書室でね、面白い本を見つけたんだよ。主人公の男の子がね、竜の子供を助けに一人で島に冒険に行く話なんだ」
「それはいい本に出会ったね」
「うん。他にも気になる本がたくさんで、お昼休みだけじゃ時間が足りないよ」
そうか、と彼は頷いて「休み時間は、他に何かしているのかい?」と続けた。
「えっとね、休み時間は本読んだり、絵描いたりしてるよ」
彼は変わらない笑顔で、もう一度、そうかと頷き、ぽつぽつと続ける僕の話に静かに耳を傾けた。
ずっと穏やかな表情で話を聞く彼に、僕はかつて同じように普段の学校の話をした事があったような気がして、彼に聞いた。
「ねぇ、前にも君にこの話をした気がするんだけど。話した事あったっけ?」
彼は、僕の目を見ると「いや」と短く返し、いつも通りの微笑みを浮かべて、僕に次の質問を投げかけてきた。何事もなかったように続ける彼の態度に、やっぱり勘違いだったのかもしれないと思いながらも、僕が質問した時に彼が一瞬、驚いたような表情をしたのが心に引っかかった。
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