片割れと偽物

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片割れと偽物

 霧の中に入るとそこは白一色の世界だった。  数メートル先ともなると全く何も見えないような状態だ。  無闇に魔力を使えば、『片割れ』を狙っている者に気が付かれる恐れがあるため感知魔法は使えない。  勿論視力にも頼ることができない。  正直『片割れ』を見つけるにしてもそれなりの時間を有することを覚悟していたのだが……ソラは周囲の状況を把握した上で特に苦もなく『片割れ』の居るであろう大凡の方角と距離の見当をつけることに成功していた。  感知魔法を使わずにだ。  これにはソラも驚いていた。  いや、冷静に考えれば気づくことも出来たのかもしれないが、ソラも記憶が戻ったばかりだ。  それに元々は人であったのだから気が付かなくても仕方の無いことかもしれない。このソラ自身の力に。  周囲の微かな音さえも捉える聴覚と僅かな匂いも捉える嗅覚。人よりも何倍も優れた猫の力だ。  特に猫の五感で最も優れている物は聴覚だ。猫が音を聞き取れる周波数(可聴域)は、約8万ヘルツ。人間の約3倍だ。本来暗い林や森の中で獲物を待ち伏せすることで成長してきた種族なのだから、十分にこの霧の中でも周囲の状況把握に役立つというもの。  更に嗅覚も犬には劣るものの人間の数十倍。魔法を使わなくともかなりの高性能だ。  だからといって魔法をつかわないわけではないのだけれども。  何故なら肉体強化の類の魔法であれば、調整次第では外部には気づかれることは無いのだから。  その為聴覚と嗅覚を魔法で更に補助してやれば『片割れ』が見つかるのも時間の問題というものだ。  案の定。  強化して早々におおよその検討までつけることが出来た。  霧の中に入ってすぐ。人の姿は通り過ぎていくものの、その全てが静止していた。  どうやらこの霧の中には催眠効果が含まれているようだ。  抵抗力のないものにしか効力はないのだが、恐らく霧の中にいる殆どの人間が静止状態なのだろう。その証拠に猫の耳を更に強化しているのにもかかわらず足音一つしなかったのだから。  一部を除いて。  そしてその一部で聞こえる足音こそが『片割れ』に違いない。ソラの記憶にある匂いとも一致しているのだから間違いないだろう。  ならば後はその音の元へと向かえばいい。などと思っていた刹那だった。
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