B級ゾンビな連続ドラマ小説

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B級ゾンビな連続ドラマ小説

「まったくもってだらしない」  やれやれと首を左右に振るソラ。  優馬からしてみれば、部活からはじまり、霧の中ではひたすら逃げ回っていたのだから、足ももう限界が来ていた。  正直泣きそうだ。  足が縺れるのも仕方がなく、よくここまで頑張ったとほめてあげたいくらいなのだから。  だがそんな優馬の心情を組んでくれるものなど居る訳もなく。 「ふむ、囲まれたようだな」  ソラの言葉に周りを見渡せば、いつの間にか安いゾンビ映画のワンシーン状態で囲まれ、操られた人達が迫ってきていた。 「あははは……。困ったな」  流石に優馬も乾いた笑いしか出ない。完全にお手上げ状態だ。  だがどこか吹っ切れたのか、思考がクリアになっていた。    人影達はゆっくりと、だが確実に迫ってくる。  しかしここまでゆっくりと責められては走馬灯も連続テレビドラマ小説位な長編になりそうだ。  優馬は不思議猫と化したソラに視線を向ける。 「ぬっ?  なぜ遠い目を我に向けているのだ?」  連続テレビドラマ小説『走馬灯』をみる前に、ソラと周りの状況を見て優馬はしばらく考える。   (操られている人達を見た感じ、羽交い締めにしてきた女性や、子供よりも明らかに動きが遅いよな……?) 「聞いておるのか!?」  (子供が襲ってきた際に、子供以外の人たちは全く動かなかったことを考えれば、一度に大勢の人を動かそうとすると、どうしても動きが鈍くなるとか、そんな所なのか?) 「むむ、おーい、  人の……、いや、猫の話を聞けええええええぇぇぇい!!」  囲んでしまえば物量でいくら動きが遅くても、優馬は確実に逃れられない。  今は確実に仕留めに来たってことなのだろう。  (でも猫のソラなら? 恐らくソラならノロノロと迫る奴らの間をすり抜けることは容易い。  それなら……) 「ソラだけなら、逃げられるよね?」 「何をいっておるのだ?」 「さすがに足がもう限界みたいでさ、俺は逃げられそうにないからね、だからソラだけでも逃げて」 「ついにネジが飛んだのか?」  (あはは。確かにネジが飛んでいるのかもね。  この霧のよくわからない状況に、助けに来てくれた喋るソラ。  この状況を誰かに話しても、頭がおかしくなったと思われるだろうね)  優馬は今日の朝もそうしたように、腕を伸ばしてソラの首元を軽く撫でてやる。 「な、なにを!?  うむ、だがわるくないな」  すると、ソラも朝と同じく撫でやすいように頭を上げる。  (急に変なしゃべり方や態度になっても、やはりソラはソラだね)  この状況で気持ちよさそうに撫でられているソラの姿に、なんだか少し気が楽になる。 「助けに来てくれてありがとう!  早く逃げて!!」  優馬は迫るB級ゾンビ……もとい、操られている人達から逃げるようにソラの体を押し、ブルブル震えている足に力を入れ、何とか立ち上がった。  邪魔な鞄はその場に置き捨て、ソラと距離をとるために最後の力を振り絞る。  そして、崩れそうになる体を無理やり言うことを聞かせながら走り出した。 (これで少しでもソラが逃げられる確率が上がればいいのだけれどね)  優馬はそのまま人の波に呑まれ視界が途切れた。  途切れて――
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