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モトの名は。
「まったく、世話の掛る飼い主だ」
優馬のまさかな行動に笑を零しながら、ソラはスッと駆け出していた。
そしてそのまま音もなくある一点へと降り立つ。
「ーーグッ!?」
そこにくぐもった声が盛れた。
いくつもの手の中。その手の中に埋もれ掛けていた優馬の声だ。
体を抑え込まれる中で、腹部に何か強い衝撃が走ったのだ。
優馬は一瞬息が止まり、勢いで目を見開く。
刹那。
(えっ――!?)
視界に入るのは、宙を舞う人々。
「……これはいったい?」
何が起きたのか理解できずに辺りを見渡す。
操られて襲って来た人達が宙を舞い、まるで空飛ぶ島の住人のように、そのままゆっくりと地面に着地する。
戸惑うのは一瞬――
(ああ、そうか……俺は……)
苦笑を浮かべつつ、自分の両の掌を確認するかのように、開いては閉じを繰り返し、見つめ理解する。
(まったく……。ソラを逃がそうとして、かなり頑張ったのだけれどな)
どうやら無駄に疲れただけだったようだと、思わず苦笑した。
(ん――!?)
もぞもぞと動くものが視界に入り、再び辺りへと視線を向ければ、操られていた人達が再び動き出そうとしている。
やれやれとため息を付きながらも、再び襲い掛かろうと動き出す人達に向け言葉を紡ぐ――
「力の根源たる我の言葉に応じ、彼の者らに纏いし闇を打ち消す光となれ。
――ディスペル――」
言霊に呼応するかのように、紡がれた言葉が形を成して、術者を中心に光が波打つ。
その波は、再び動き出そうとしている人達を飲み込んでいき、黒いモヤモヤを払っていく。
(流石にまだ詠唱が必要なようだけれど、魔法自体は問題なさそうだ)
子供のモヤモヤを払った時と同じように、光に包まれた人達は、その動きを止めていく。
ふと、自分のポケットからスマホを取り出して、カメラ機能で自分の顔を確認する。
「なるほど……」
優馬の髪は黒髪で、瞳の色は茶色。中学3年で顔はまだあどけなさを残していたのだが……。
そこに移る姿は白銀の髪に、金の瞳。完成された顔つきには幼さは消え、朝倉優馬の姿はなかった。
スマホをしまい、改めて自身について整理する。
(俺の名前は朝倉優馬。
ただの男子中学生だ。)
(我の名前は朝倉ソラ。
ただのとてもキュートな白猫だ。)
そして――
「元の名はクラネス・カーバイン。
ただの異世界の元大魔王だ」
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