21人が本棚に入れています
本棚に追加
霧に巣食うもの
「元の名はクラネス・カーバイン。
ただの異世界の元魔王だ」
血液が流れる中に、魔素が混じりあい循環していく。
先ほどまでの脚の気だるさが嘘の様に消え、体中から力が沸き上がるのが感じられる。
「ククク……」
ソラの記憶が優馬の中に流れる。
クラネスは自分の体を確認するかのように動かしていると、不意に2つの視線に気が付き、
(ああ、そうであったな)
と思わず喉を鳴らす。
「して、お主は我に何用か!?」
そのまま霧の先。こちらの様子を覗き見る、ソラの偽物へと言葉を投げる。
実はソラが優馬の元に駆けつけた時から気がついていたことではあるのだか、ずっとこちらの様子を覗き見ていたのだ。
とは言え、今更ソラの偽物が動いた所で今のクラネスにとっては気にするほどのことではない。
(今は機嫌が良い。先ほどまでのお遊びは即死で許してやるぞ?)
等と本気で思うほどには余裕があった。
その様子に何が面白いのか、ニンマリと笑みを浮かべ、まるでケタケタと笑っているかのように小刻みに顔を揺らすソラの偽物。
そのまま霧に溶け込み散っていった。
どうやら霧に散りクラネスを喰らう算段のようだ。
ソラの偽物の様子から明らかに何かを仕掛けようとしているのが丸分かりだ。
「くだらぬな」
クラネスは霧に消えたソラの偽物を一瞥し、やれやれとばかりに肩を竦める。
霧に消えたからと言って見えない訳では無い。
霧の中に溶け込んではいるものの、魔力を目に集中させることによりその姿を捉えることが出来るのだ。
霧とは異なる二つの物がこちらに向かってくる姿が見て取れる。
クラネスはその一つに手に伸ばし、そのまま難なく掴んで見せると霧から引きはがし投げつけた。
最初のコメントを投稿しよう!