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喰わせてやる
「ククク……そんなに我を喰いたいのか?」
喰らいつこうとする女を軽くいなしてやると、女はそのまま地面に転がり砂塵をかんでいる。
クッとこちらを睨む女。
(何か驚愕な表情を浮かべているようにも見えるが、何を驚いているのやら……。ん――?)
女はクラネスから少し視線を外すと、ケタケタと笑いだす。
そしてまた懲りずにクラネスに向け飛んできた。
(此奴はバカなのではないのか?)
クラネスから視線を外した先には、ディスペルをかけ、放心したままの人達が数名立ち尽くしていた。
何を考えているのか容易に想像がつく。立ち尽くしているもの達を襲おうとでもしているのであろう。
更にクラネスが助けに来たならばその隙をつこうというところか。
案の定。
唐突に女はクラネスから方向を変え、その数名の人達へと口を開け迫る。
細められた瞳には恍惚なものを宿していた。
そのまま目の前の人間を喰らいつこうとして――。
出来なかった。
勿論クラネスが焦り、隙を作ったわけでもない。
(ふむ、分かっていることに対処するなど造作もない)
クラネスは女が動くよりも早く、魔力を足に集中させ跳躍していたのだ。
そして女がクラネスの動きを理解するよりも早く女の顔を鷲掴み、地面へと叩き付けていた。
「――ッ!?」
「やはりお主はバカなのか?」
ただ足に魔力を集中させただけのもののため、別に強化魔法でも無いのだが、どうやらそれだけで十分であったようだ。
自身の体を確認しながら、女に視線を送る。
「さて、女。お主は我の魔力が目当てなのだろう?
ならば存分に喰わせてやるぞ?」
クラネスは何を思ったのかクククと喉を鳴らすと、自身の根源から魔素を練り魔力を高める。
喰わせてやるのだから殺意も何も発していない。
それを察知したのか女は再度ケタケタと笑いだし、女の全身からブワッと煙のようなものがいっきに放出された。
女は魂が抜けたようにだらりと崩れ落ちる。
煙は霧の中だというのに雲の塊となり膨れ上がり、渦を巻きながらクラネスに襲い掛かると、魔力をむしゃぶりつくしていった。
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