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「うわぁぁぁぁぁあああ」
ソラの耳に『片割れ』の物らしき叫び声が届く。
思わず足も早くなる。そして。
(なっ!?)
叫び声がした辺りまで駆けて来たところで、その足を止めた。
『片割れ』は叫んだ後に慌てて駆け出したらしくこの場にはいない。
だがそこに1つの影の姿があった。その姿に驚き目を見開く。
なぜならば、その姿はソラの姿そのものだったのだ。
こちらには気づいていないようであったが、霧の先を眺めケタケタと笑うとそのまま霧に溶け込むように消えていく。おそらく『片割れ』を追ったのであろう。
(どうやら少しおふざけが過ぎる様だ)
その姿でソラの偽物が、『片割れ』に何をしたのかはおおいに想像がつく。
どうせソラになりすまし近づき、この場所に誘い込んだのだろう。正直不快でしか無い。
だが、ソラの偽物が、『片割れ』が逃げたであろう先を追っていることから無事であることの確信を得ることもできた。
あくまでそれは命に関わることではないと言うだけなのだが。
実は先程『片割れ』の息を呑むような声と共に血の匂いが鼻をついたが、死ぬほどの事でもなし。
そのいっ瞬のみ反応しただけで、それ以降ソラにとっては『無事』のカテゴリーに入るようで、気にもしていなかった。
何かあったとしても『片割れ』との距離も目と鼻の先なのだから、どうとでもなるとも思ってもいる。
勿論何かなど起こさせる気などソラには毛頭ないのだが。
だからこそ――。
「っ――」
早まる心拍とともに息をのむ『片割れ』。
その様子が手を取るように『音』として伝わるソラは次の瞬間。
濃い霧を抜け、霧が薄くなった一帯に2人の人影を捉えていた。
中学生くらいで、細身ながらも鍛えられてはいるであろう黒髪の少年と小柄で10も満たないであろう幼い少年だ。
そして。
幼い少年が、血がべとりとついたハサミを向け黒髪の少年へと迫る。
そのハサミを向けられた黒髪の少年こそ、ソラの『片割れ』朝倉 優馬(あさくら ゆうま)だった。
優馬は幼い子供に恐怖し、
「っ――」
息をのむ。
目前に血しぶきが飛ぶ。
血しぶきに思わず目を逸らそうとし――
血しぶきが自分の物ではないことに気付く。
「ふむ……。自身のペットと見分けられないとは何とも嘆かわしい事か」
優馬の耳に、知らないはずの聞き慣れた声が届いた。
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