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クロールの水をかく腕がつくる空気の泡と、自分の肺から吐き出されるいくつもの泡。それらが出来ては破裂するくぐもった音を、川崎は聞いていた。
少し長く水の上に顔を出していると、水中ウォーキングクラスを指導する笛の音が聞こえる。現実の世界と水の中が、隔てられたそれぞれ別の世界のようだと思った。海底は宇宙と同じくらい未知な世界だと言う。プールの底も、孤独な一つの世界のように川崎には感じられた。
酸素がなくても生きていければいいのにと川崎は思った。誰もいない水の底で暮らしたかった。
人恋しくなったり、世間体を気にして人並みに格好をつけた生活をしようと、足掻いているような日常を川崎は面倒くさく感じるようになっていた。
世間の目が煩わしいのは、自分が人と違う、人から顔をしかめられる行動をとっているからかもしれないのだが。
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