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「実日子なら少し前に帰ったようだよ。夫婦が入れ違いに同じジムに来るなんて、顔を合わせたくないんじゃないかぁ?おまえ達ももう終わりだな」
「いいえ、実日子は下の子の保育園のお迎えに行っただけですよ」
棚田の言葉に、ジムの壁にある大きな時計を見るとまだ五時前だった。
「平日のこんな時間にスポーツジムなんて優雅だな」
「サービス業なんで休みが人と違うだけです。あなただってそうでしょ?レストランの経営は順調ですか?」
「まあな」
棚田は眉間に皺をよせ、俺を睨んだ。優しい男だが、気が強いところもあるようだ。そんな強さでもなければ、このご時世自分の店を持とうなんて思わないのかもしれない。
「結衣にはいつでも会いに来てください、僕から実日子に言っておきます。高校に入って部活が忙しいようだけど」
「ずいぶん自信があるんだな、俺が実日子や結衣と会って依が戻らないと思ってるみたいだ」
「実日子はあなたを憎んでいます。結衣も母親の顔色を見て話しを合わせているようです。」
「恨まれて当然か…」
「実日子は今でもたまに、あなたと結婚していた頃の恨みごとを、僕にぶちまけまけるんです。僕は内心ゾッとしています。こんなに暗く冷たい怒りをいつか自分にも向けられるんじゃないかと思って」
「ゾッとする?言ってくれるじゃねぇか仮にも俺の元嫁に向かって」
川崎は棚田の襟首を掴みかかる。殴ろうと思っているのではない。ただの威嚇だった。
「やめてください」
棚田は低く落ち着いた声で、俺の手を静かに振り払い襟を直す。
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