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息を飲んで呼吸を整える。数分前、草むらから突然現れた蛇を追い払った。誰も被害にあっていない。たいしたことでもないにもかかわらず、少し興奮している自分が恥ずかしい。
スマートフォンを耳にあてる。透明な樹脂の吸盤のように、画面に吸い付いた耳が冷やされる。動揺を悟られまいと、落ちついた低い声を出した。
「もしもし、市民課ですか?」
「どうされました」
電話の向こうの職員と思われる男性の声は、あくびを噛み殺したようにくぐもっていた。
「海浜公園に大きな蛇が一匹いるんです。もしかしたら他に数匹いるかもしれません。」
「噛まれましたか?」
「いえ、噛まれてはいません。」
男性職員の言葉が、それがどうしたとでも言いそうなほどに無関心に聞こえる。 近くで他の職員の笑い声が聞こえた。
「小さい子供がいるんです!」
私は少し深刻な調子でそう付け加えた。私の子供だけではない。ここには、毎日大勢の家族連れが遊びに来ている。子供だけで来ている者もいるだろう。噛まれてしまっては大変だ。
「海浜公園ですね。すぐ係の者に行かせます。」
ことの重大さが少しは伝わったのか、それともクレームになっては困ると思ったのか、職員の声色が神妙なものに変わっていた。
「はい。お願いします」
三、四人の男たちが川崎の目に浮かんだ。手には蛇を採るための、蛇の体を挟む金具が先に付いた棒を持っている。蛇の首をキュッと締め付けるように抑え、容器に入れるのだ。
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