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校舎を出ると空はぶ厚い雨雲に覆われていた。水分を含んで重くなった雲から、今にも水滴が滴り落ちてきそうだった。
「雨降りそうだね」
紗希が空を見上げる。
「うん。でも傘持って来たから大丈夫!」
「そう言えばさ、小学生の頃傘を忘れた結衣に、よく結衣のお父さんが学校に傘を届けに来てたよね。教室が一階の時なんてさ、こっそり窓開けて傘を差し入れるんだけど、なぜか目立ってしまってバレバレだった。すぐ、あ!川崎だーっ!て男の子たちが騒いで」
「そう、みんな私の父を呼び捨てにしてた」
「しょうがないじゃない。結衣のお父さんは有名人なんだもん。」
小学生の頃、午後から雨が降り出し傘を持って来なかった日には、匡臣さんがよく傘を持って来てくれた。
私は恥ずかしく思いながらも、色めき立つ教室に優越感を感じずにはいられなかった。匡臣さんとママが離婚する前の話だ。ママの再婚相手の今の父もいい人だが、傘を学校に持って来てくれたことはなかった。
「結衣のとこ、私の家より夫婦仲良さそうだったのに、離婚なんて残念だったなぁ」
匡臣さんとママが離婚したのは私が小学校の低学年の時だったが、子供心に私もまさかうちの両親がと思った。ママに訊ねると、原因は匡臣さんにあったと言う。
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