蛇になった男

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その昔、ママは子供(私)がなかなか授からず、結婚から三年が経過した頃、仕方なく勤めていた会社を辞め妊活に励んだ。その頃、匡臣さんはボクサー時代の賞金で始めた店が軌道に乗らず、思うように売り上げを伸ばすことができずに焦りや不安を抱えていた頃だった。 ママが二十九歳、正臣さんはえーっと、四十…代だったかな?ママは二十代で子供ができないのなら、三十代ではもっと難しくなるだろうと思って焦っていたと言う。 だけど匡臣さんの実家も、ママの実家も匡弘さんのレストランの経営が上手くいってないのを人づてに聞いて知っていた。なので、外で働くこともせず、レストランを手伝うこともしないママは親族から責められていたのだ。それでもママは少しは店に出るのだけれど、やはり体を気遣い長時間は働かなかったらしい。 匡臣さんは今回も子供が授からなかったとわかると、妊活に良くないタバコをママの目の前で吸った。タバコは女性の生殖機能に悪いだけじゃなく、男性の精子にも悪いのに…。私の卵だけのせいだと思っているのだろうか?とママは思ったという。 匡臣さんがトイレでタバコを吸った時も、狭い室内に煙りが篭っているので、副流煙を気にしたママがトイレの換気扇を着けると、匡臣さんがすぐにその換気扇を消した。ママ曰く節約しろと言うことらしい。 ママが友達と出かける日や習い事がある日には、無駄遣いをしないように、匡臣さんが前日に見切り品のお弁当を買って来た。匡臣さんはママに何も言わなかったけれど、家に帰って食事をするようにと言う意味だろうとママは思って、その通りにした。 ママはそんな匡臣さんの態度を、私が働いていないのだから仕方ないと自分に言い聞かせていた。子供が授からず苦しんでいるのは、匡臣さんだけじゃなく、私も同じなのにと思いながら。
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