蛇になった男

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それからしばらくして私が産まれた。匡臣さんの仕事も軌道に乗り、結婚生活は再び順調に歩み始めた。匡臣さんがもう一人子供が欲しいと言い出すまでは。 匡臣さんの仕事が好転したと言っても、商売は水ものでこれからも、売り上げの浮き沈みはあるだろうと思われた。ママはまた匡臣さんのお店を手伝うこともできずに、肩身の狭い思いをし、子供が出来ないことに不貞腐れた匡臣さんに、嫌がらせをされることになるだろうと思った。 ママは匡臣さんを愛していた。けれど、自分が愛されているという実感は薄かった。 そしてママは探した。本当に自分を愛し、優しい夫となる新しいパートナーを。 表向きの離婚の理由は、その頃発覚した匡臣さんの浮気だった。ママは私の親権と慰謝料と養育費を匡臣さんから貰った。 離婚が成立して数年経った頃、ママは今の父と結婚したが、知り合ったのはもっと前、匡臣さんと結婚していた時だった。ママは私に言った。このことは誰にも内緒ね、と。私は約束通り誰にも言わなかった。 そしてそのことでママと私は共犯者になり、同時に私たちは匡臣さんに後ろめたさを感じるようになった。ママの匡臣さんへの憎しみは、そんな後ろめたさの裏返しだったのだ。そして私もママの手前、匡臣さんと仲良くするのは躊躇われていた。
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