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川崎はこのスポーツクラブで、ある人の背中を追っていた。しかし、いつのまにか姿を見失う。
仕方なく、プールサイドを歩いていた彼は、水の中に飛び込んだのだった。それから一時間ほど泳ぎ、川崎はプールから上がった。
プールサイドに置いておいたタオルで濡れた体を拭く。行きに買ったスポーツドリンクを喉を鳴らして飲んだ。
さっきまで水中にいるのが一番いいと思っていたのに、喉を伝う液体を胃の中に流しこむと、地中深い泥の中から生還したような清々しい気持ちになっていた。
平日の昼下がりのスポーツクラブは客がまばらで中高年が多い。緩慢な時間の中、五十メートルプールのあちこちで、白く皺の寄った手足から水飛沫が上がっている。
ガラス越しに午後の柔らかい日差しを浴びながら、消毒の為の塩素の混じった空気を吸い込む。その匂いは、むんとする室温といっしょに温水プールに自分がいることを、水の中にいる時以上に印象づけていた。
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