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「結衣、ママになんて言って来たんだ?反対されなかったのか?」
「ママなんて関係ないわ。私もう十五よ。」
「そうか、もうすっかり大人だな」
「それより匡臣さん、私、名城高校受かったの!匡臣さんを驚かせたくて頑張ったのよ。」
「そうか、良かったな」
「それだけ…?匡臣さんをびっくりさせたくて、高校合格するまで匡臣さんに合わずにいたのに。」
「そ、そうか」
学歴コンプレックスだろうか。素行が悪く、俺は高校を中退した。そんな俺は、結衣の名門校への進学を上手く喜べなかった。結衣は俺の淡白な反応に、俯きため息をついた。
「どうした?腹でも痛いのか?」
「ぷっ、腹って!」
「匡臣さんはいつもそう!自分の自慢は沢山するくせに。匡臣さんが高校にちゃんと行かなかったことは知ってるわ。だからって、私の合格を、受け流すような言い方しなくてもいいじゃない」
「なんだって!」
川崎は思わず声を荒げ、結衣の手首を掴んだ。
「痛いやめてよ!」
思わず手に力が入り、結衣が小さな悲鳴をあげる。通行人が睨むような目で、こちらを見ている。中年男性が女子高生をホテルにでも連れ込もうとしているように見えたのだろう。
川崎はごめんと謝って、結衣の手を離した。結衣が歩く速度を速める。川崎が結衣の後を追うように、二人は歩道を歩いた。
結衣と会ったのは一年前のそれが最後だった。あの日、あれから二人でイタリアンのレストランで飯を食ったけど、話しも弾まずに別れた。
俺はどうしていつも人を怒らせてしまうんだろう。結衣は俺に、喜んで欲しかったのに。良くやったとただ褒めて欲しかっただけなのに。どうして俺は…。川崎は数少ない結衣とのひと時を、楽しく過ごすことが出来なかった自分に腹が立つのだった。
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