蛇になった男

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教室の大きく開いた窓から、カーテンを膨らませて風が入ってくる。曇った空に押し出された湿った風から、ふと消毒液の匂いを嗅いだような気がした。 それからスポーツクラブのプールで泳ぐ、匡臣(まさおみ)さんの姿が目に浮かぶ。匡臣さんとは私の父のことだ。川崎匡臣という。元ボクシングの世界チャンピオン。 私は母のことはママと呼ぶが、父のことは匡臣さんと名前で呼んでいる。父もそのことを嫌がらず、かえって喜んでいるようだった。 重要な箇所に線を引こうと、定規を使って横に真っ直ぐな線を描いた。その時、定規の端で鉛筆の先が削れ、ノートに黒い点のような粉が撒かれた。 その撒き散らかされた黒い点に、昨日試験勉強をしながら、深夜に見たテレビアニメを思い出す。タイトルは不思議少女マジカルメクミン。子供の頃やっていたアニメだが、今は昔のアニメを懐かしむ夜更かしの大人の為に再放送されていた。 年老いた悪い魔女が、星のような形をした数個の黒いダイスを床に放り投げる。そして、魔女が占う不吉なお告げのとおりに悪いことが起ころうとする。メクミンは正義の魔法使いとして、悪い魔女と戦うというストーリーだった。
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