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トロント便のアナウンスが流れた。
アッっと突然反応する。サラは慌てて立ち上がった。
私の手を取って引き上げると、私の手を離さぬまま、案内板に目を向けた。
行かなきゃいけない時間なんだ、そういう事がすぐわかって、私はサラの手を外した。
「ほら、……早く行かなきゃ」
観念したかのように、サラは右手にスーツケースを、左手には再び私の手を握って、搭乗手続きに向かうようだった。
手を引かれてサラの必要な手続きを見守ることになった。
手続きが済み、ここから私はついて行けない、そこで初めて、サラとの別れを惜しむことになった。
なんと言葉を紡げば良いのか。
決めることのできない私は、黙って胸の前で手のひらを振った。
サラも同じ思いのようで、何も言わず惜しむように私と目を合わせていた。
あぁまた、涙が流れそうだ。こぼれていかないように、ギュッと目をつむって俯くしかなかった。そこに、ペタペタとした足音とともに大きな影が近づいてきて、暖かい胸の中に包まれた。ぎゅっと一瞬強く抱きしめられて、耳元で聞こえた言葉は「I miss you」大きな瞳とかち合って今度はこういった。
「マタ、会いにキマス」
そう言って掴んだ両肩をふわっと離して小走りでゲートを超えていった。
透明なガラスの奥で、透き通る白い手を三回、めいいっぱい大きく振って小さくなって去っていった。
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