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洞窟からすぐのところにある、石造りの闘技場の上に一次試験合格者が集められ、場所を変えて二次試験の説明が行われていた。多くの受験者が服や体を汚しており、一次試験の厳しさを物語る。人数もかなり減り、およそ八十人ほどになっていた。
試験監督のフーベルトが厳しい面持ちで説明する。
「二次試験は、一対一の対人戦だ。クリティカル判定の一撃が決まったら終了。勝敗は関係なく、二人とも合格のこともあれば、逆もまた然り。互いの実力を存分に発揮してほしいと思う」
またしても手短に説明が行われ、対戦相手を決める抽選が行われる。アレンの順番は第二試合。好戦的なアレンは早めの対戦に満足している。
対してリアは第一試合、一気に顔が硬直する。しかし、何かが破裂したように、
「どうしましょう! アレンさぁん!」
涙目でアレンに飛びつく。対してアレンは、極めて冷静にアドバイスする。
「お前の売りはその火力だ。それを開始直後に一発見せておけば大丈夫じゃないか?」
そんな話をしていると、正面から一人の男が近づいてくる。
「久しぶり、リア」
「レン、あなたも入学試験を受けていたの!?」
白髪で端正な顔立ちをした男であった。身長はアレンより少し大きく、小顔で足が長くスタイルが良い。漆黒のブーツに銀色のジャケットとロングパンツが印象的で、腰には白銀のサーベルが光る。そのきらびやかな見た目は、どこかの王子のようであった。全身が太陽光を反射し、煌めいている。
アレンはリアの発した『レン』という名前からこの男を容易く認識した。
レン=ブレッヘルト、Ag(銀)の能力者。あらかじめ充電しておいた電気を銀の高い電気伝導率によって操る。宮廷お抱えの伝統のお家柄の騎士であり、さらにその実力は折り紙つきで、最年少で軍にスカウトされ、既に実戦で活躍している。その実力と見た目から国民からの信頼を熱く、次期王候補と囁かれている。
そんな有名人とリアに関わりがあることを疑問に思いながらも、その親しげな様子にアレンはモヤモヤしていた。
「レンはいつ試合なの?」
「第二試合だよ」
「あら、ならアレンとじゃない」
その瞬間、アレンとレンの間に火花が散る。その一触即発な雰囲気にリアはきょとんとしていたが、すぐに一試合目の召集がかかる。
リアがいなくなり、アレンが睨みつけながら話しかける。
「随分と仲良さげじゃねえか」
「まあ、昔からのよしみでね。君の方こそお互いに気を許している感じだったが?」
「ただ一次試験が一緒だっただけだ。相性が良いことは否定しないが」
再び二人の間沈黙が生まれる。しかし、数秒後、巨大な破裂音によってかき消された。
「この先は剣で語ることにしようか」
「悪くねぇ」
すぐに第二試合の招集がかかった。
服をさらにボロボロにし、髪の毛もボサボサになったリアがアレンに小走りで駆け寄っていく。
「アレンさん! 頑張ってくださいね!」
リアは両拳を胸の前でぎゅっと握り、アレンを見上げる。アレンは無言でレンの方に視線をやり、したり顔をする。レンはすました顔をしながらも、いらつきを隠せない。
リアは今度はレンの方へ近づいていく。
「レンも頑張ってね! ファイト!」
右頬を膨らませ、細い腕ながらも力拳を作るポーズをとる。今度はレンがしたり顔をやり返す。アレンは血管を浮かび上がらせ、指を鳴らしながら闘技場の真ん中へ向かっていく。
両者指定の位置につき、戦闘開始の掛け声を待つ。
「先に声をかけられたのは俺だったな」
「僕には名前を呼び捨てだが、君はまだ『さん』付けなんだね」
仕様もない口喧嘩を続けながら、両者抜刀する。
「それでは、試合、始め!」
レンは腰に蓄電器のような機械をつけており、左手でボタンを押すと、全身に電気を纏った。さらにもう一度ボタンを押すと、さらに電気が威力を増し、バチバチッと轟音を鳴らす。
対するアレンも、いつものように双刀から火花を散らし、炎を剣に纏わせる。勢い余った炎はアレンの周りに飛び散り、アレンが炎の鎧を着ているかのようになる。
互いの電気、炎の勢いは一気に上がり、同時に最高まで達したところで、両者剣を振ると同時に前方へ射出し、衝突した。
「バースト・フレイム!」
「スターク・ブリッツ!」
ほぼ互角。闘技場が悲鳴をあげる。床の石畳は所々ヒビが入り、風がフィールドの外にも襲う。他の受験者たちは必死に飛ばされないように踏ん張りつつも、このレベルの高い戦いを見逃さぬと言わんばかりに、目を凝らしていた。
この能力の力比べは時間が経つにつれて、ややレンに形勢が傾く。そこでアレンは炎を手前の地面に撃ち、砂煙に身を隠した。レンは電撃を一度止め、電気を纏ったサーベルを引き、水平に高速で振る。
「ホライズン・ブリッツ!」
地面と水平に扇型を描いた電撃が砂煙を切り裂く。しかし、アレンの影はない。瞬間、視界が影に覆われる。
「(上か!)」
「双炎・墜!!」
アレンの双刀による上段斬りが完璧に決まった、かに思われたが、レンは白銀の盾で間一髪防ぐ。
「(作ったのか!? この一瞬で!?)」
「(へえ、古流の剣術か。何という衝撃、かなり腕が痺れるな)」
アレンの体は宙に浮いている。その隙にレンは右手のサーベルによる高速の突き四連撃を繰り出す。アレンは二本の剣で一撃ずつは受けるが、残る二撃が肩口にヒットし、たまらず後方に跳びのき、間合いを取る。傷跡に痺れが走る。
「(くっ、電気による麻痺か)」
攻撃を決めたレンも浮かない表情であった。
「(ギリギリで急所を回避してきた)」
今まで高いレベルの世界でしのぎを削ってきたレンにとって、同世代でこれほど腕の立つ相手と出会えることは予想外であった。それでも、まだ余裕は感じていた。
「(まだ発展途上か)」
対するアレンもレンを今まで出会ったことのないほどの強敵と認識する。目標とすべき人間が見つかったような気がした。
「(強い。しかもまだ全力を出していないか)」
わずかな空白の後、二人が選択した戦略は一致する。
「(接近戦!)」
二人の突進により間合いが一瞬にして詰まる。凄まじい剣撃の応酬が幕を開ける。アレンの二刀流によるラッシュをレンはサーベルと盾で捌く。
何度も攻守が切り替わりながら、互いに決定打を探るも決着はつかない。接近戦が始まってから三分が経過しようとしていた。次第に状況はアレンに傾いていた。この変化はレンにやや疲れが見え始めたからである。筋肉に乳酸が溜まっていく感覚がレンを襲う。
「(彼の動きの質が落ちない)」
レンの疑問を他所に、アレンはさらに攻勢を強める。
「(このまま押し切る!)」
アレンの動きが落ちないことには理由があった。
「(オキシ・ブースト!)」
アレンは自分のエレメントにより、酸素を体内に送り続けていた。つまり、常に酸素マスクをつけたような状態で戦っていたのだ。その差は歴然。そしてこの長期戦もアレンの作戦通り。
「ウオォォォォォ!」
アレンの重い一撃がサーベルを吹き飛ばす。
「これで終わりだ!」
アレンの右手の長刀から繰り出された渾身の一撃は空を切った。炎が宙に弧を描く。その場の全員に時が止まったかのような錯覚が起こる。
レンが懐に潜り込み胸部へのカウンターが決まっていた。腕をたたみ、左手にはサーベルが握られている。
「(剣を飛ばしたのは俺を誘い込むためか!? そこで盾を剣に変化させてのカウンター!?)」
「(経験不足、だな。実戦で最も勝負が決まりやすいのはカウンターだ。駆け引きは高いレベルで数をこなさないと身につかない)」
勝負は決し、アレンは背中から倒れこむ。
空を見上げて、歯を食いしばる。
アレンの手に握られた二本の刀から炎が消えた。
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