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夢
2月下旬の夕方、ランドセルを背負った少年はひとりで下校している。背が高く、年の割にはキリッとした顔立ちをしている。
そんな少年に、30近くの男性が小走りで駆け寄る。
「よう、ケン坊」
男性は二ィっと口角を上げ、少年を呼ぶ。
「葉さん……。その呼び方はやめてって言ってんだけど……」
ケン坊は不機嫌を隠さず、男性を見上げる。
「はははっ、それを気にしてる限りはケン坊だな」
葉さんはケン坊の頭を、グリグリと撫で回す。
「なんだよ、それ……。俺だってもう、中学生になるんだぞ」
「おぉ、そうかそうか。だがな、中学生も子供だ」
「うっ……、そうだけど、ケン坊呼びはやだ」
「そうか、そうだなぁ……」
葉さんは顎に手をあて、考える素振りを見せる。
「ケン坊、大人試験受けるか?」
「なにそれ」
ケン坊は訝しげな顔をする。
「大人が出来ることをするんだよ。それが出来たら、ケン坊呼びはやめてやるよ」
葉さんはニヤリと笑った。
「やる! 大人試験、やるよ」
「よぉし、いい返事だ。こっちだ」
葉さんはくるりと背を向け、歩き出す。ケン坊は大人しくその後について行く。
「ここって……」
「怖気付いたか?」
ケン坊は店を見上げて目を見開き、葉さんはニタニタと笑う。
葉さんがケン坊を連れてきたのは、BARだ。
「怖気付いてなんかない」
ケン坊は店に足を踏み入れる。葉さんは笑いながら一緒に入った。
「ようこそ、カーラ・ミラへ」
初老の男性がにこやかに出迎えてくれる。
「おや、阿良々木さん。以前は独身だと仰っていたと思いましたが……」
男性は葉さんとケン坊を交互に見た。
「せーたのせがれだ」
「なるほど、言われてみれば凛々しい目付きが、誠太郎さんに似ていますね」
男性は優しい眼差しでケン坊を見る。
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