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「父さんも、ここに来るんですか?」
「えぇ、時々。よくあなたの自慢話をしていますよ。さぁ、お好きな席にどうぞ」
「小泉さん、ニコラシカとりんごジュースを。ケン坊、こっちだ」
葉さんは注文をすると、カウンター席に座った。ケン坊はその隣に座る。
カウンターの中には、小泉の他にふたりの従業員がいた。ひとりは背が高く、モデルのように整った顔立ちの男性。もうひとりは黒髪ポニーテールの女性で、険しい顔をしてこちらを見ている。
「トウヤさん、お願いできますか?」
「はい」
返事をしたのは女性の方。
(トウヤだなんて、変わった苗字だな……)
ケン坊はぼんやりそんなことを考えながら、店内を見回す。
グラスが置かれる音がして前を見ると、トウヤが葉さんの前にグラスを置いた。茶透明な液体が入ったグラスの上には、蓋をするようにスライスレモンが置いてある。レモンの上には、山の形をした砂糖がのっている。
(なにあれ……)
ケン坊はまじまじと、グラスを見る。
「お待たせ致しました」
涼しげな声と共に、ケン坊の前にりんごジュースが置かれる。
「ありがとう、お姉さん」
「お兄さん、な」
トウヤが不機嫌そうに言うと、男性と葉さんが笑った。
「笑うな」
「いってぇ!」
男性は脛を押さえる。どうやら足を蹴られたらしい。
「あれでも男なんだよ」
葉さんはケン坊に耳打ちをする。
「聞こえてんぞ」
トウヤはひと睨みすると、奥へ引っ込んだ。
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