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(あの人が、男……!?) ケン坊が驚いてのれんを見ていると、目の前に例のレモンがのったグラスが滑り込んできた。 「これが大人試験だ」 「どうすんの、これ」 ケン坊はグラスと葉さんを交互に見る。 「これはニコラシカっていうカクテルだ。これが飲めたら大人だ、飲み方は教えてやろう。まずは砂糖を挟むようにしてレモンを……」 「レモンと砂糖はサービスするんで、お手本見せたらどうですか?」 モデルのような男性は、にこやかに言う。 「助かるぜ、紫雨」 葉さんは紫雨に微笑みかけると、砂糖を包むようにレモンを2つ折りにした。 「これを口の中で混ぜるんだ」 そう言って大口を開けると、葉さんは皮だけが残るようにレモンを食べた。 「すっぱそう……」 ケン坊は顔をしかめて葉さんを見上げるが、当の本人は美味しそうにかみ続けている。時雨は葉さんに炭酸水を差し出した。 「よく噛んで混ぜたら、グラスの中を空にする」 葉さんは炭酸水を飲み干した。 「これが大人試験だ」 「わかった、やってやる」 時雨は未完成になったニコラシカを下げると、再び完成形にしてケン坊の前に置いた。 ケン坊は葉さんがやったようにレモンを2つ折りにすると、小さく息を吐いてからひと思いにかじりついた。 「っ~~!!!」 (すっぱい!!!) ケン坊は口をおさえ、足をじたばたさせる。 「はははっ、やっぱまだまだだな」 葉さんは豪快に笑う。 「なにやってんだ、でれすけ!」 いつの間にか出てきたトウヤは声を荒らげると、ケン坊の前に一口サイズのチョコが入った小皿を置いた。 「ほら、チョコ入れてよく噛め。砂糖も入ってるから、すぐにすっぱいのなくなるはずだ」 ケン坊はトウヤの言う通りにチョコを食べ、口を動かした。砂糖とチョコの甘さが、レモンの酸味を緩和していく。 「これで飲み込め」 葉さんがりんごジュースを差し出す。ケン坊は一気にりんごジュースを流し込み、飲み込んだ。 「葉さんなんか大嫌いだ!」 ケン坊は涙目になりながら、葉さんを睨んだ。
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