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再会
早朝、 喫茶店はぐるまのマスターである海野健次は、身体を起こすとため息をついた。
「なんつー夢を……」
頭を掻きながらゆっくり起き上がると、八百万の神であるヤオが部屋に入ってくる。
『ずいぶんと早起きね。まだ目覚ましも鳴ってないわよ?』
「昔の夢見て、目が覚めた……」
海野は本棚から古びたアルバムを引っ張り出して開いた。色あせた写真には、真っ赤なバイクの前で無邪気に笑う少年が写っている。その後ろでは、企むような笑みを浮かべた男性が、フルフェイスのヘルメットを持っている。
『子供の頃の健次さん?』
「いきなりヘルメットを被せられる5秒前のな……」
そう言って海野は、ヘルメットを人差し指で軽く叩いた。
『この人は、お父さん?』
ヤオはヘルメットを持っている男性を指さす。
「いや、父さんの友達。確か……阿良々木葉蔵さん。前に話したニコラシカの……」
『あぁ、それがこの人なのね』
ヤオは興味深そうに葉蔵を見る。
「はぁ……。さて、奇子の弁当つめるか……」
海野はアルバムをしまうと、はぐるまの厨房へ行く。奇子というのは海野と20以上年の差がある婚約者のことで、今は文学専門学校に通っている。
厨房に立つと、海野はオムレツやサラダ、ピラフなどを作っては弁当箱に詰めていく。同時進行で銀鮭の塩焼きや味噌汁なども作る。
4人掛けのテーブル席に、純和風な朝食が3人分並ぶ。
『すごいすごい! 鮭に味噌汁、お豆腐に肉じゃが! これぞ日本人の朝食ね』
ヤオは朝食を見てはしゃいでいる。
「奇子を起こしてくる。先に食うんじゃねえぞ」
『分かってるわよ』
海野はヤオに釘を刺すと、愛しい婚約者を起こしに向かった。
『さて、と……』
ヤオは懐から懐中時計と2枚の歯車を取り出した。それぞれの歯車にとある人達の名前を書くと、懐中時計を開ける。中に時計は無く、代わりにたくさんの歯車が回っている。ヤオはそこに2枚の歯車をはめ込むと、蓋をしめてネジを回した。
ヤオが懐に懐中時計をしまうのとほぼ同時に、寝ぼけまなこの奇子を連れた海野が戻ってきた。
3人のにぎやかな朝が始まった。
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