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坂道の途中で振り向いたわたしは、わあ、と小さく叫び、慌ててカメラを構える。すばやくシャッターを切る。
激しい通り雨のあとの夕焼けの景色。そのグラデーションはまるで、グランデサイズのフラペチーノ。
むくむくとしたホイップの雲。青みが残る空はミントシロップ。横に伸びる太陽の光は雲にからまるマンゴーソース。そしてカップのほとんどを占めるショッキングピンクは甘酸っぱいラズベリーフラッペ。
ストローをさして吸い込んだら夢のような味がするんじゃない?
わたしは一心不乱にシャッターを切る。
シャッターを重ねるうちに、したたるようなラズベリーフラッペは、どんどん赤みをましてジャムのようになる。やがてカップからこぼれ出し、遠くに見える白いビルを飲み込み、真っ赤に染める。瞬く間に街は燃えるよう。なんだか世界の終わりみたいな風景に変わる。
その景色から目を離すことができず、わたしの指はジャムの赤い手につかまれてシャッターを切り続ける。
「ヒーコ! 何やってるの! はやくはやく! たっくさん蝶が飛んでる!」
背中に文月の声がかかる。その声で、ようやく赤い手からほどかれたわたしは、
「すぐゆく!」
大きく返事をし、振り返って坂道を駆け上がる。
わたしの視界に、古いけれど立派な洋館の屋根が飛び込んでくる。駆けるごとにそのお屋敷はぐんぐん大きくなる。
鉄柵の門をくぐり抜け、その洋館の敷地に足を踏み入れる。文月は庭の真ん中に立ち、はやくはやく、とわたしを呼んでいる。
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