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うっとり夢見心地なわたしたちを見て、マダムは満足そうに微笑んでいる。マダムは口に添えていたティーカップをソーサーにおろすと、わたしに尋ねる。
「ねえ、あなた。さっきの写真は、パソコンで現像しないと見られないのかしら」
「あ、はい。綺麗な写真はパソコンで現像しないと見られないです。マダムはパソコンやスマホは持っていますか?」
「今は手元にないけれど、必要なら用意いたします」
「そのパソコンかスマホにアプリを入れてもらえたら、そこにアップした写真を見ることができます」
「アップ? なにか大きくするの?」
写真をアップロードすることの説明は少し難しいな。
「クラウドサーバーにアップしてっていうのは、雲の上に乗せる感じなのかな、うーん……」
「写真を雲に乗せる?」
マダムの疑問は、きっと雪だるま式に増えている。わたしはどう説明したらよいか分からなくなり、頭を抱える。あ、でも待てよ。カメラの画面で見せればいいんだ。
「マダム、今言ったことは忘れてください。まだ現像前で、画面は小さいけれど、ここで写真を見ることができます」
わたしは立ち上がり、マダムにカメラの液晶画面を見せる。連写をして撮っていたので、まるで動画のように、先ほどの場面が浮かび上がってくる。マダムは、ほお、と驚いたように息をつく。
「これでもまだ現像前なの。それなのにとてもよく撮れているわ。わたくしも、あんなに蝶が集まってきたのを見たのははじめてのこと。もしあなたが許してくださるなら、蝶がたくさん群がっている写真と、このクロアゲハのアップの写真、現像した後でいただくことはできないかしら」
「もちろん、喜んで! パソコンではなくて、実際の写真として、印画紙に焼いて持ってきます」
マダムはにっこりとほほ笑む。そのあと、少し小首をかしげ、なにか考えるそぶりのあと、わたしを見つめ、問いかける。
「それと、お願いがあるのだけれど。いいかしら」
神妙な視線を投げかけるマダムをいぶかりながらも、わたしは、いいですよ、と答える。
「今から、わたくしの肖像を撮影してはくれないかしら。撮影料はしっかりとお支払いします。よろしくお願いします」
深々と頭を下げるマダムに、わたしたちはびっくりして顔を見合わせる。わたしは、あんまり人物を撮影したことがないから、と断ろうと思った。でも、マダムの態度に何か切実なものを感じたので、
「分かりました」
とだけ答えた。
「では、お茶が済んだら、奥の部屋へいらしてちょうだい。あちらのものが案内します。わたくしは着替えに時間がかかりますので、ゆっくりお茶をお飲みになって。あと、ご家族に連絡はできるかしら。お夕飯には間に合うようにします」
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