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 “北の森には魔女がいる。 悪い子供を食べられてしまうよ。“  そんな言い伝えが、この村にはあった。  実際に、十数年前の新月の日に生まれた子供が魔女に攫われて食べられてしまったという事件がある。  その子供はいわゆる魔力持ちで、将来有望な子供だったという。  子供の両親は魔女から大切な我が子を取り戻そうと奮闘したが失敗に終わったらしい。  村はずれにある墓場には、その両親と子供の空っぽのお墓がある。村の人に聞いたところ、魔女に食べられてしまったから遺体はないと教えて貰えた。 「リア、どこへ行くの?」  友達のサリナの問いに、リアは腰に吊った木剣を叩いて笑みを深めた。 「森! 今日も修行に行くの」 「また? リアってば、いっつも修行ばっかり。たまには一緒に遊ばない?」 「う~~ん、ごめんね。私、いつかはこの村を出て旅人になるのが夢だから、今のうちに剣の修行をしていたくってさ」 「そんな非現実的な事ばっかり言って、またおばさんに怒られちゃうわよ?」 「う~~、夢見るくらい良いじゃん」 「リアも、もう十歳になるんだから、そんな夢みたいなことを語ってないで、少しは身綺麗にしておかないと、十五の成人の時にお嫁さんに行けなくなっちゃうよ?」 「その時は、その時! それじゃあ、行ってきます!」  リアはサリナの小言を右から左へと聞き流し、走って森の方へと向かった。  後ろから、サリナの声が聞こえたが、リアは全て無視した。 (お嫁さんになったら、一生この村にいなくちゃいけなくなるじゃん。私は広い世界が見てみたいんだ)  時折村に訪れる吟遊詩人の歌に、リアは幼い頃から心を奪われていた。  広大な海、視界の端まで続く草原や、壮大な山脈、そして土地ごとに違う人柄と文化。  目を閉じて吟遊詩人の言葉に身を委ねると、まるで自分自身がその場所へ行った風に感じられる。  いつか本物の景色を見てみたい。  リアはその想いが人一倍強かった。  それ以降、村の自警団の訓練をのぞき見して、森で鍛錬を重ねてきた。  木剣は父の幼少期時代のもののお下がりで、家族には身を守る術を身に付けるためと言って譲り受けたものだ。 (いつかは本物の剣を握ってみたいなぁ、白金色の刃を敵目掛けてスッパーーーンッと!)  リアは持っていた木剣を手にし、草鞋の巻かれた木々に刃面を当てて通り過ぎていく。 走りながら剣を当てる行為はかなり難しかく、よく剣を打ち出すタイミングを間違えて、木に弾かれて転ばされることがしばしばだ。 「………いっつぅ~~、またやっちゃった」  今回も盛大に弾かれて木剣をどこかに飛ばしてしまった。 見通しがあまり良くない森の中、あるとすれば茂みの中だが、これいかに。 リアは茂みを掻き分けて探した。
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