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 小さい頃から友達が欲しかった。  病弱な身体は陽の光を浴びることすらままならず、日中ベッドの上で本を読んで過ごしていた。  いつか元気な身体になって外で友達をたくさん作ることを夢見て、僕は今日も本を読んでいる。 「カオル、起きているかい?」  扉がノックされ、僕は栞を挟んで本を閉じた。 「はい、起きています。おばあ様」  軋みをあげながら開かれた扉の向こうから現れたのは、100歳を越えていそうな老婆だ。  彼女は僕の育ての親だ。枯れ枝のような手足に腰が曲がった背中、それでも杖は必要ないみたいで普通に歩いている。  皺だらけの顔を更に歪ませて笑った。僕は老婆のこの顔が好きだ。  僕まで嬉しくて笑みを零してしまうからーー。  僕の両親は、この老婆の家の前に僕を捨てていったらしい。  理由は、僕が“忌み子”だから。  老人のように白い髪と、兎のような赤い目をした子供は、“忌み子”として人々から嫌われているらしい。昔から人々は、人を見た目で判断する生き物なので、僕の容姿も嫌悪の対象となっているのだと教えてくれた。 それに加えて僕の場合は生まれつきの虚弱体質だ。  “忌み子”でありながらの虚弱体質。誰だって、こんな面倒くさい子供の面倒何て見たくないだろう。だから捨てられた。  僕は独りぼっちで泣いていたらしい。  誰にもいらない、必要とされない哀れな子供。  そのまま朽ち果てるか野生動物のお腹の中に入る運命だった。  けど、おばあ様が僕を拾ってくれた。  おばあ様は、早くに娘夫婦を事故で亡くし、それ以来、この森の奥深くに一人で暮らしているのだという。  おばあ様は僕を慈しみ大切に育ててくれた。 枯れ木のような手を伸ばし、僕の頭を優しく梳いてくれる。 「今日はヤギと香草のスープだ。食べられるかい?」 「はい、今日は気分がいいのでお肉も美味しく食べられそうです」 「そうかい、そいつは良かった。たくさん食べて栄養を付けるんだよ」 「はい」 僕は嬉しくて思わず笑みを零した。 おばあ様はいつも僕の身体の心配をしてくれる。大切にしてくれている。 それなのに、僕はおばあ様に何をしてあげることもできない。 (歯痒いな)  おばあ様の作る料理は天下一品だ。  暖かくて美味しくて、思わず笑みを零してしまう。  それなのに、突然襲い掛かる喉の違和感に、僕はせき込んだ。  おばあ様は手慣れた様子で僕の目の前に桶を出してくれるので、僕はそこに異物を吐き出した。喉の奥からツンッと酸っぱい酸味がこみ上げ、身体が魚のようにビクンビクンッと飛び跳ねる。  吐いても吐いても気分は良くならず、次第に異物から血痕がにじみ、僕は血を吐いた。  おばあ様が僕を見ている。 (ごめんなさい、せっかくおばあ様が作ってくれた夕飯を無駄にしてしまい……)  僕の心を読んだようなタイミングで、おばあ様は破顔する。 「いいんだよ、それよりも少し眠りな。大丈夫、明日にはきっとよくなっているよ」  おばあ様はいつもそう言ってくれる。  だから、僕は安心して瞼を閉じることができた。  次もきっと、目を覚ますことができると思うからーーー。
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