タケル

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タケル

赤いランドセルがほしかった。 保育園のとき、くつばことか、おどうぐばことかに、名前のテープとシールがはってあった。テープは男の子は青、女の子は赤で、シールはみんなちがう絵で、じぶんのっていう目印。 ぼくは『きむらたける』とかかれた青いテープとクワガタのシールが、いやだった。虫、こわいし、きらいだし。 ぼくの前のりんちゃんはさくらんぼで、後ろのひなたちゃんはピンクのお花。赤いお名前テープと、かわいいシールがうらやましかった。 小学生になったら、自分で好きなものをえらべる。 それをとても、楽しみにしていた。 だけど色とりどりのランドセルがならべられた売り場で、ぼくが赤いランドセルを指さしたら、おとうさんとおかあさんがビックリしたような、こまったような顔をした。 少し迷って、それからぼくに言った。 「ランドセルって6年間使うんだぞ。学校行って他の子のを見て、やっぱりあっちの色がよかったって言っても買いかえるわけにいかないんだ」 「そうよ。お母さん達待ってるから、ゆっくり他の色も見ておいで。あそこの、紺に赤いラインが入ってるのなんてカッコいいじゃない」 べつに、カッコいいのがほしいわけじゃない。男の子の青色はずっといやだった。赤いランドセルがほしかっただけなのに。 「タケルは男の子のくせに赤いのがいいのか」 言われたとおり他の色のランドセルを見ていたら、おじいちゃんがそう言ってるのがきこえた。 「お義父さん、今時はそういう言い方はあまり…」 「じゃあ赤いのを買ってやるのか?」 「いえ…それは…」 おとうさんとおかあさんが、また、こまっている。 ぼくが、こまらせている。 「…これにする」 結局ぼくがえらんだのは、もようのない、茶色いランドセルだった。 「お、シンプルだけどカッコいいじゃないか!」 「…おとなっぽいから」 カッコいいから、じゃない。 どうして男の子は『カッコいい』のをえらばなくちゃいけないんだろう。 男の子は青で女の子は赤で、どうして男の子は赤いのをえらんじゃいけないんだろう。
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