07 終止符

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 荷物はそれほどなかった。  海が保管していた俺の貴重品と、瑞樹がくれた数着の衣服。鞄ひとつに収まるほどだ。 「周、本当に行くの」  瑞樹は最後までつらそうな顔をした。 「うん、ごめん」  色々考えて、瑞樹とはやはり別々に住むことにした。行き先は教えず、遠くへ行くと決めた。  海と離れるなら、瑞樹の近くにいるべきじゃないと思った。全員が傷付くだけだから。 「じゃあ、そろそろ行くよ」 「待って」  俺が行こうとすると、瑞樹は腕を掴んでまっすぐこちらを見た。  大袈裟なほど心臓が跳ねる。掴まれた腕が妙に痛い。 「俺、周のこと……」  駄目だ。この先を聞いたら、胸が捩れる。  俺と瑞樹は一緒にいられないのだから。いても、お互い苦しいだけだから。俺にも瑞樹にも、海を傷付けることはできないから。 「言うなよ……頼む。聞きたくない」  知りたくない。知ったら離れるのがよりつらい。 「今までありがとう」 「周……」 「瑞樹には本当に感謝してる」  感謝以外の気持ちはひとつも漏らさないように、慎重に言葉を選んだ。 「自分勝手だけど、俺のことは忘れてくれ」  嘘だ。忘れられたらきっと生きていけない。瑞樹に忘れられたら……。  でもあと一言、最後に一言、それだけ言うことができれば終わり。  今までだって痛かった。あとひとつくらい傷を負ってもそう変わりはしない。 「さようなら」  やっと絞り出せた声は、思っていた以上に小さく歪んだものになった。  瑞樹の手の力が緩み、掴まれていた腕がすとんと落ちる。  瑞樹が何かを言う前に、俺は背を向けた。  歩き出した瞬間、喉が焼け付くように熱くなった。 やがて頬に涙が伝い、それは一度溢れると呼吸ができないくらいに次々流れた。  瑞樹は追いかけてこなかった。  よかったと思った。もしもこんな顔を見せたら、瑞樹は俺を一人で行かせなかっただろう。それが誰にとって何の救いにもならないと分かっていても、きっと一緒にいてくれたはずだ。  ――痛い。 これでよかった、これしかなかったのだと思えば思うほど、胸が痛くなった。  ――痛い……痛い。  だけど今だけこの痛みを耐えれば、きっとあとは薄れていくだけだと、唇を噛んで掌を握り締めた。  
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